第2回会議基調報告
松田友義:千葉大学大学院自然科学研究科 教授
本会が目指す標準化の方向について
※配付資料「トレーサビリティシステムの標準化の必要性」
●標準化の必要性について
標準化:1つのまとまった中で全てを取り仕切る約束事を作るということは考えていない。
まずは標準化という言葉を定義してから取り掛からなければならないのかもしれないが、どこからどこまでを標準化するのか、まだ頭の中でまとまっていないので、とりあえず通常理解されている形で標準化という言葉を使って説明する。
【図1.標準化の必要性について(資料1枚目:上段の図)】
現在、牛肉、米、野菜、あるいは養殖水産物等を対象としたトレーサビリティシステムが作られている。また、本年度実証試験でも4億円の予算で品目別のトレーサビリティシステムの開発が行われることになるのでもっと増えるわけである。さらに、助成を受けていないおそらく十数件のシステムがいつでも稼働できる状況にある。このように品目別のシステムが多く出回ると、むしろ業者側でどのシステムがよいのか混乱をきたすのではないか。
一番混乱をきたすのは、図にも示したとおり複数の食品を調達したり、複数の食品を販売したり、あるいは複数の企業を相手に調達したり販売したりするような企業であり、そこでは、品目別のトレーサビリティは、それ以外のものには使えないため、システムがあふれてしまい、EDIの時のような多端末現象がまた起きることが懸念される。図で網掛け部分は、複数の食品や商品に携わる企業である。このように1つのシステムだけで問題のない企業は多くはないと思われる。
トレーサビリティはガイドラインにも書かれているが、チェーントレーサビリティという形で導入しようとした場合、むしろ一つの品目だけを扱っていることの方が少ない。多くの品目を扱っているのが普通である。牛肉用のトレーサビリティシステムは法律で決まったので必要である。野菜も水産物も必要になる。これらのシステムで情報にアクセスする仕組みが全部異なる場合、それぞれですべてをみなければならなくなるが、それは避けなければならない。
1つのシステムではなく、いろいろなシステムを同じようにして使うことはできないだろうか。そのために必要なのが標準化ではないだろうか。そういう意味で標準化という言葉を使う。標準化したから全て同じシステムを使わなければならないということではない。情報をいろいろなシステムで共有できるような、共同利用できるようなシステムにする必要がある。
このような会を立ち上げた背景には、実際にトレーサビリティシステムを開発している、あるいは利用しようとしている人が困っているという現状があるからで、それはたぶん、トレーサビリティシステムで提供される情報というのがどこからどこまでなのか?ということが明確でないからである。
●提供する情報
トレーサビリティ(トレーサビリティシステム)で提供する情報は生産履歴、あるいは流通履歴という形で言われているが、この中には全く別の性格の情報が混ざっていると考えている。これについては、ガイドラインができた当初から議論があった。一番議論になったのは、すでに農業団体では生産履歴トレーサビリティという形で、生産履歴だけを提供するシステムがある程度できあがり、出回っていた。しかしこれだけでは完全なトレーサビリティシステムではないので、これをもってトレーサビリティであるというのは問題がある。農林水産省の野菜課ともいろいろ議論をしたが、最終的にはトレーサビリティというのは「チェーントレーサビリティ」でなければいけない。生産、加工、流通、小売といった全ての段階で食品とそれに関する情報の遡及・追跡ができなければいけないと定義した。その考え方では生産履歴だけを提供するトレーサビリティシステムというのは成り立たないことになる。
しかし、実際のメディアではよく生産履歴トレーサビリティと出ている。また、消費者の中にはトレーサビリティの導入により安全性そのものが担保されるといった間違った認識がある。これは直していかなければいけない。直していくためには、トレーサビリティには大きく分けて2つの情報があることを理解してもらう。
【図2.標準化、情報の共有化の対象(資料1枚目:下段の図)】
(1)流通履歴(トレーサビリティ)情報
(2)安全確認情報
これらは全く性格の異なる情報である。
では、国際的に見てトレーサビリティで提供する情報はどうかというと、国際的にも明らかになっていない。
フランスでは、野菜、食肉関係の人は生産履歴を重視する。途中の流通履歴は小売店の段階まで行ったら,ばらばらになってしまって、どこをどう来たのかわからない。どこから買ったのか、どこに売ったのかわからない。といったように曖昧な点もまだまだ残っている。
生産の側では、生産履歴を付けただけでトレーサビリティといってもいいかといった問題があったが、松田の考えでは図2の下の生産履歴や輸送管理履歴等は情報としてみた場合全く性格が異なる。安全確認情報というのは食品によって様々であり、全く異なる情報が必要とされる。これは安全を確認するための情報であり、むしろ異なるのが当然である。例えば、牛肉の安全を確認するための情報は、全頭検査でBSEにかかっていないという情報と肉骨粉のような飼料は与えていないといったような情報になるであろう。しかし、その情報は米の安全を確認するためには全く関係ない。つまり、食品毎に安全を確認するための情報というのは、全く異なるものである。これを全て網羅するようなトレーサビリティシステムを作ろうとすると、やはり品目別のシステムを作らざるを得ない。
それに対して、図2の上の流通履歴情報は、ガイドラインにあるような基本的な要件 −誰から買って誰に渡したか− という情報をその商品に完全に関連づけて記録・保管しておくこと、である。その情報というのは、処理して別の食品になったとしても元の食品と同じ種類の情報であるととらえることができる。この情報は取引履歴、所在履歴になるわけであるが、商品毎にかえる必要の全くない同じ性格の情報である。
しかし消費者の立場で最も重要なのは、安全を確認するための情報である。トレーサビリティの基本機能に基づく流通履歴、所在履歴というのは、消費者にとって本当に重要な安全を確認するための情報に至るためのパイプでしかない。松田が主張する標準化はこのパイプの部分である。
下の方の安全確認情報はむしろ標準化しない方がよい。これは品目毎に必要な情報が異なるからである。安全確認情報を型にはめてしまうと、それ以上の情報は出さなくなってしまうであろう。標準化の形を決めないでおいて、システムを開発したり利用したりする側がよりよい情報を提供できるよう,工夫の余地を残して置いた方がよいであろう。
●流通履歴情報の共有化
この会議でどのようになるかとは別のことであるが、松田が考える標準化する必要のある部分は図2の網掛けした部分、要するにトレーサビリティの基本経路に関する部分ということになる。そのためにはどのような仕組みにしたら良いか、図3に示す。
【図3.流通履歴情報の共有化(資料2枚目:上段の図)
流通履歴情報と安全確認情報についてはまずはきちんと定義しておいた方がよいが、流通履歴情報というのがトレーサビリティシステムで共通化されなければいけない情報である。流通履歴情報とは、「どこから、いつ、誰から、どれだけ買ったのか」「いつ、誰に、どれだけ売ったのか」というトレーサビリティの最低限の要件としてガイドラインにも表されている条件の情報と、「ものがどこにあるのか」を示す情報、この2つが流通履歴情報と考えられるのではないか。安全確認情報というのは、生産履歴、加工履歴が主なものであるが、輸送中の商品の情報(安全に関す
るような商品の輸送情報)も提供できるものであれば、提供した方がよい。輸送履歴、陳列履歴。これらの情報を安全確認情報と捉えて流通履歴情報とは別に考えて行きたい。
ではいったいどこを標準化する必要があるのか。図3より、G1:生産者、T1:輸送業者、P1:加工業者、T2:輸送業者、R1:小売業者とする。ここでは生産履歴、輸送履歴等の安全確認情報というのは、それぞれで保管し関係者が管理するのが最も経済合理的ではないだろうか。これとは別にトレーサビリティシステムに情報を提供する仕組みが必要なのであるが、そのためには商品そのものに識別番号を付ける必要がある。そしてトレーサビリティシステムの内部を流れる情報にも商品を識別するための情報が必ず含まれなければいけない。つまり、情報のトレーサビリティ、商品のトレーサビリティの両方が成り立たなければトレーサビリティシステムというのは機能しないのである。例えば、システムAというのは野菜のトレーサビリティシステム、システムBというのは牛肉のトレーサビリティシステムというように異なる品目の別々のシステムとする。P11の加工場では野菜も牛肉も扱う。そのため両方のトレーサビリティ情報が必要になる。このときにシステムAとシステムBに全く互換性がないと、P11の加工場では両方のシステムを導入しなければいけなくなる。それを防ぐためには、システムAが提供する流通履歴情報をシステムBでも認識できるようにすれば問題は発生しない。これと同じことが輸送業者についてもいえる。消費者についても、事故でトレーサビリティシステムに接続する機会が発生した場合、そこから野菜についても牛肉についてもトレースできる。このような仕組みが提供されていれば、少なくとも流通履歴情報の共有化は可能となる。
●集中(一括)管理方式の例
1つのデータセンターのようなものを作り、1つのシステムの上で全ての食品のトレーサビリティシステムが走るというような議論もあるかと思う。必ずしも全てを1つにする必要はないと思われるが、どこからどこまでかを決めてを1つにしたら、あらゆる食品の流通履歴情報が1つのセンターで管理できるという1例である。
【図4.システムの共通化:一括(集中)管理方式(資料2枚目:下段の図)】
いずれの方式をとるにしても、いろいろな流通履歴情報が他のシステムでも共通に利用できるような仕組みにしておけば、集中管理システムでも、個々のシステムを開発しインターフェースでつなく方法でもかまわないのではないだろうか。
新たに1つの基本となるトレーサビリティシステムを作り、全てがそのシステムに乗っからなければならないという仕組みは考えていない。それはもうすでに多くのシステムが開発されており、これらの資産を無駄にする必要はないからである。すでにあるものについては何とかして情報の共同利用を図りたい。
●標準化の必要な点
(時間がなかったのでうまくまとまってはいないが)結局、どの部分を共通化したらよいか。いままでの考えを整理する。
【図5.標準化が必要な点(資料3枚目の図)】
流通履歴情報の入力、あるいは入出力、出力といった部分をなんとか共通化できないか。ただし画面表示から全ていっしょにするという訳ではなく、データの入力形式やEDIのような形で共通化できればかまわないのではないか。さらに入出力の方法、インターフェースばかりではなく、情報の共通化をする必要がある。これはトレーサビリティシステムに流れている情報というのは、トレースに関する情報であることがわからないと、どのトレーサビリティシステムを使っていようが、アクセスもできないということになってしまう。
それと商品のトレーサビリティを考えた場合、商品に何らかの形で識別するための番号なり記号なりをつけないといけない。それがまったくバラバラであると、様々なものを取り扱っている倉庫などでは混乱してしまう。あるいは問屋のようないろいろなものを受け渡さなければならないところでは困ってしまう。そのため、商品の識別情報も標準化するなり何らかの形で統一しなければならない。これに関しては、コード化するという考えもあるが、コード化する場合は、今すでに存在するコードで利用できるものがあればそれでも良い。
例えば、EANで開発されているような、国際的なトレーサビリティに関する情報でも一番最後の方に数桁取り、そこをトレーサビリティに関する場所にするというようなケースが多い。もし利用できるようなコードがあるのであれば、それを利用した方がよいのではないかと考えている。この点についての検討もできれば早急に進めたい。そのときに日本の食品供給の実態を考えれば、おそらくゆくゆくは輸入品についても同じように要求されるような事態になるのではないだろうか。そのためには国際的な流れにも乗っかった上で共通化も考えた方がよいであろう。
図5の一番下に「商品に添付する情報」と書いてあるが、これについては、個人的には商品を識別するだけの情報でよいので、バーコードで十分であると思う。バーコードからネット上にあるトレーサビリティ情報や安全確認情報にアクセスできればかまわないと考えているが、2次元バーコード、RFIDのように大量の情報を商品といっしょに運ぶという考え方もある。ただ、いくら豊富な情報が商品といっしょにあっても、商品の所在がわからなければその情報自体に意味がなくなってしまうので、情報を商品に付けるだけではたぶん完結しない。その情報をネット上で探せるような別個のトレーサビリティシステム、トレーサビリティネットワークのようなものを必ず作っておかなければならない。
以上
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